独禁法のお話 ~迷宮入り

 「俺のミッション」第四章「醉翁之意不在酒~直訴」の中で、無錫代理店はある製品を次代コーポから特別価格の70元で購入し、最終顧客無錫設備の購買価格は150元だった、つまり中間マージンが80元もある、という記載をしました。

 読者の中には「エンドユーザーにいくらで売ろうが、商社の勝手ではないのか?」と思われる人もいらっしゃるでしょうから下記のような原稿を書いておりました。併せて独禁法に関する逸話も紹介しようとしました。青字部分が原稿から削除した内容です。

 考えてみると「独禁法」の究極の目的と荻村の理想は一致していたのだと思われます。

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独禁法を少し知っている人は「代理店から顧客への再販売価格を拘束するのは不当である」と感じるだろうが、「これは不公正な販売方法ではなく、販売顧客単位での契約事項であり公正取引委員会の関与することではない」という理解が正しい。

代理店経由のメーカー営業にとって独禁法の理解は必須であるが、シェアの高いメーカーはどうしても優越的な地位となり、実は独禁法の本意を理解せず、よかれと不法な対応をしている場合が多い。

荻村は京信で日本国内営業の企画スタッフをしていたことがあった。バブル経済が崩壊し収益確保に喘いでいたときだ。全製品値上げという支店長会議での案件の中で全国の支店長が鼻息荒くトップにやる気を見せつけていた。

「代理店にうちの営業員を同行させて顧客に値上げを嘆願し、何が何でも成功させます!エイエイオー!」

と盛り上がっていることろに荻村はぽつねんと言い放った。

「独禁法違反ですね。明らかに再販売価格の拘束です」

 全員が目が点になっているのが解った。

座長である国内営業トップは冷静なふりを装って質問した。

「荻村、それは本当か?」

「100%間違いありません。法務部へ確認願います」

 荻村はこのような正論で上位者の鼻をへし折ることが多くかわいくない存在だったが、不法行為を事前に阻止した自分が正しいと考えていた。

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 どうしてこれが独禁法違反なのでしょうか?

 結論を申しますと、京信素材が代理店価格を値上げするのは自由です。しかし代理店から顧客への再販売価格に京信が首を突っ込む行為は「再販売価格の拘束」という不公正な取引方法に当たります。

 メーカーが代理店と同行して顧客へ値上げを嘆願する行為は不法ですのでご注意ください。単独で代理店の顧客へ訪問し価格を決めるのは最悪です。

https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_05.html

 荻村は京信に入社前、実家の電気屋を手伝っていました。メーカーから見ると末端の零細業者です。メーカーからの指導の多くは常識的に考えて法律に反するのではないか?と気づいておりました。指導というのは「あの顧客には行ってはいけない」「この製品を**円以下で売ってはいけない」等です。

 それが独禁法によって規制されていることを知ったのは京信入社後3~4年、まだ営業員の時代でした。

 荻村はある新鋭代理店S社を担当していました。ここは若くて勢いのある二代目社長に統率された商社で、新規攻略も得意としていました。

 既存顧客を奪われそうになった超大手老舗代理店O社が京信の支店長に面談を求め、新鋭代理店S社の動きを押さえてもらうよう依頼しました。

 「荻村、ちょっと来てくれ。S社がO社の顧客へ少し安い見積もりを出し、奪おうとしているようだが止めさせろ」

 「どこへ行こうがS社の勝手なので規制はできないと思うのですが……」

 「『これ以上妨害すると代理店契約を解除する』と言ってこい」

 その時の支店長がこのような指示をするのです。

 荻村は違和感が強く法務部に「こういう事をしても問題ないですか?」とFAXを送りました。すぐに法務部係長から内線がかかってきて「違法です。独禁法に接触します。法務部の権威と圧力で止めさせます。誰がこんなことを言っているのですか?」とかなり怒っている様子です。荻村は「支店長です」と答えると、法務係長の激怒が憤怒に変わったのが分かりました。

 本件違法性の根拠ですが、「再販売価格の拘束」「拘束条件付き取引」「取引拒絶」「優越的地位の濫用」などが適用されるのではないかと思われます。

 荻村はこういうやり方をするので「一匹狼」になってしまうのです。やり方には注意した方がよいと思いますが、「倫理観」はとても重要なことでしょう。

 この事件をきっかけに独禁法の勉強を始めるのですが、その頃はまだまだinternetがなく書籍を買ってきて穴が開くほどじっくり読みました。その本はまだ彼の本棚にあるようです。

 独禁法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、公正取引委員会という行政委員会が管轄しています。当時は「噛まない番犬」と不名誉なあだ名を付けられていました。1990年中頃からでしょうか?ビルだったか信号機だったかの入札をカルテルとして摘発し「あ、噛みついた」と一躍世に出てきました。

 ここで指摘したいのはこの法律を一般的に「独占禁止法」または「独禁法」と呼んでいることで、「独り占め」だけを禁止しているような響きがあることです。一般消費者や流通業者にとっては「公正取引の確保」の方が身近です。

 先に「私的独占の禁止」を解釈しますと、「私的」が禁止なので「公的」にはよいということです。これは昔の「国鉄」「電電公社」「専売公社」がそれぞれ「鉄路」「電話回線」「塩や煙草」を独占していた事例でお分かりになるでしょう。

 何故私的独占を阻止するかというと一社で独占すると競争がなくなることにより企業努力が失われ、粗悪品を不適当な価格で販売することになっていきます。消費者はそれしかないのでしかたなく買います。こんなことで健康に経済発展していけるでしょうか?ということです。潤うのは独占した企業だけです。更に歩留まりの悪い製品生産の原価も売値に反映すればよいのです。結果的にこれは資源の無駄遣い、環境破壊にもつながります。

 そして私的独占する手段としても不公正な取引方法を用いることができます。例えば大手企業が体力勝負をしかけ廉売(安売り)する、販売店に過大なインセンティブを与え競合他社を排除する、ことが可能です。独占したら値上げしてタップリ儲け返せばよい、という方法を取ることも可能なので、それを牽制する法律となっています。

 荻村が次代コーポ中国販社で対峙したのは不公正な販売方法を凌駕し不正でしたが、その真の目的は独禁法と同じように正当な競争と努力を繰り返すことで、よりよい製品・サービスを適切な価格で顧客にお届けし、努力した者が報われる環境を作ることでした。これは「最終章テセウスの船」にて送別の挨拶で荻村が述べています。

 ある読者から「荻村の最後の挨拶は私の信念と全く同じでスカッとした!」とのお便りをいただきました。

 メーカーの方も商社の方も独禁法はきっちり押さえておきましょう。

再見!

 

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