麗老師の厳しい指導~中国語学習者向き

  香港の話が続きました。

 一服して中国学習のことを書いていきましょう。

 「俺のミッション」の主人公荻村淳一は赴任直後、言語と文化の壁にさいなまれ、プチノイローゼ状態になるのですが、言語能力の向上や文化適応に大いに協力してくれたのが中国語家庭教師の麗先生です。

 拙著にも書きましたが「贼喊捉贼~泥棒が泥棒を捕まえろと叫ぶ」など中国文化も教えてくれた恩師です。

 麗先生は2002年授業開始当時65歳でした。女性で満族の北京人、華南で最も偏差値の高い中山大学で外国人向け中国語教師を長年していたそうです。

 先生は中国語では「老師」となり、自分にその敬称を付けて呼びます。中国では一般的です。

 つまり麗先生は自分のことを「麗老師」と呼びます。

 自宅のインターフォンで呼び出しがあり受話器を取ると、麗老師が保安(セキュリティの人です)に

 「我是中山大学的丽老师(丽は麗の簡体文字で、私は中山大学の麗先生です、という意味)」

と自慢げに話している姿を目撃し、はー、そういうもんなんだ、と理解できました。

 

 さて麗老師は北京人かつ専門の中国語教師なので、発音及び文法に対し、非常に厳しい指導をします。

 荻村前後、同じく習うことになった日本人駐在員は全員クビになったようです。

 荻村が紹介した2名もすぐにクビになっていました汗

 「復習しない。宿題しない。すぐに仮病で休む汗。」

以上だそうです。

 ※ちなみに赴任者の多くは最初張り切って学習しようとしますが、1年も経たないうちに挫折します。週1回2時間だけでは絶対に上達いたしません。

 荻村はよい通訳がおらず、とにかく最低限の仕事上のコミュニケーションを取らねば任務を果たせないため、焦っていました。

 宿題どころか、日記とかトピックスとか仕事上で伝えたい文章とかを書き、必ず添削してもらうようにしていました。

 そんな荻村を麗老師は気に入ったらしく、

 「あんたは見込みがある。でも週1回2時間では不足だ。週2回各3時間しよう!」

と提案します。

 平日はキツいとは思いましたが、任務全うの使命感が強く提案を受けることにしました。

 専門家なので1時間180元(元レートなら3,600円)と高く、月5,000元程度支払っていました。

 巷では、

 「荻村さんが麗老師を食べさせている」

との噂まで立ったほどです汗

 基本は水曜日19時から22時と土曜日11時から14時です。

 土曜日はまだよいのですが、平日は仕事でボロボロに疲れてからなので、キツいの何の。

 授業は1時間半位が限界で後半はもうろうとしていました。


 中国標準語といえども、華南エリアと北京では発音に大きな違いがあります。

 荻村の事務所メンバーはほぼ広東人か南エリア(湖南省・湖北省・広西チワン族自治区など)の人材でした。荻村も当然彼らの発音に慣れてくるのは自然なことです。

 ある授業の時

 「丽老师,您好。吃饭了吗?(麗先生、こんにちは。ご飯は食べましたか?)」

 ここで「ご飯を食べましたか?」は挨拶のレベルでしばしば使われます。

 「リィラォスー、ニンハオ。ツーファンラマ?」

と華南訛りの発音で挨拶してしまいました。

 麗老師の表情が豹変します。

 「啊?你刚才说什么?(は?今何と言った?)」

 「丽老师,您好。吃饭了吗?(リィラォスー、ニンハオ。ツーファンラマ?)」

 荻村は繰り返します。

 「哪里的乡下人这样说的?(どこの田舎者がそんなこと言ってるんだ?)」

 「同事(社員ですが)」

 「你不要跟乡下的中国人说话!(あんた田舎者の中国人としゃべるんじゃないわよ!)」

 「そんな~汗」

 中国語非学習者の方のため説明しておきます。

  荻村が発音した言葉:(リィラォスー、ニンハオ。ツーファンラマ?)

  ※太字部分が訛っています。正式にはそり舌音でカタカナで表すのは難しいですが、

  標準語:(リィラォシー、ニンハオ。チーファンラマ?)

  ピンインを使うと

  荻村:(li laosi, ninhao. cifanle ma?)

  標準語:(li laoshi, ninhao. chifanle ma?)

の違いで、正解は「そり舌音」、荻村のは「舌歯音」という違いになります。

 しかし南方の中国人は舌が短く「そり舌音」ができないため、舌歯音で代替えするそうです。

 ところが北京人である麗老師は自身の発音に絶対的な自信を持っております。北京語を元に作った標準語(普通語)こそが美しいという思想です。

 荻村には正式な普通語を学ばせようと厳しく発音を鍛えました。


 別の日のことです。出張から夕方戻れた荻村に麗老師から電話がかかってきました。

 「荻村先生,你好。你回来了吗?今天要上课吗?(荻村さん、こんにちは。戻りましたか?今日は授業しますか?)」

 「丽老师,您好。我回来深圳了,今天上课吧!(麗先生、こんにちは。私は深圳へ戻りました。授業しましょう!)」

 するとまた声のトーンが変わりました。

 「啊?你刚才说什么?(は?今何と言った?)」

 「你应该说“回深圳来“!不可以说“回来深圳”!(「回深圳来」と言うべきで「回来深圳」とは言えないのよ!)」

 ※深圳という場所の位置の問題です。回来の間に入るか、後に来るか、ということです。

 「哪里的乡下人这样说的?(どこの田舎者がそんなこと言ってるんだ?)」

 またしても同じ台詞で不愉快そうに攻撃してきます。

 中国人も「回来深圳」と言うことはあります。

 荻村も流石に頭にきて声を上げました。

 「除了您之外,我周围的所有的中国人都是这样说的!(あなたを除き、私の周りの人はみんなこのように言いますよ!)」

 「あいやー!你还是再也不要跟乡下的中国人说话!(やっぱりあんた、こんりんざい田舎者の中国人と話をするんじゃないよ!)」

 「不会吧!(そんなことできるわけねーだろー!)」

 麗老師は非常にショックを受けたようでした。

 その晩、荻村のアパートに両手に3冊分厚い本を抱えてきて、テーブルの上にドサッと放ちました。

 全て中国語文法書です。

 「你看!哪里写“回来深圳”呢!?(どこに「回来深圳」なんて書いてあるんだい!?見てみなさい!)」

 怒っていました。

 ※中国語初学習者の方に解説しておきましょう(青字)。ご興味ない方は飛ばしてください。

  目的語である場所がない場合は「回来」でOKですね。

  「回来了」と言えば「ただいま/お帰りなさい」両方の意味で使えます。

  「他回去了」と言えば「彼は帰りました」となります。

  「来」はこちらに向かってくる動作、「去」は去って行く動作に使います。

  「回+場所+来/去」の用法の場合、回は「前置詞」、場所は「目的語」、来/去が「動詞」ではないかと筆者は分析します。

  「到+場所+来/去」も同じ用法だと思います。到は「前置詞」です。「~へ」という意味合いがあります。

  「我到了(着きました)」の到は「動詞」です。

  「我搬到深圳来了(深圳へ引っ越し来ました

   →日本語に似ています。引っ越すの意味の搬が「動詞」、到は「補語」、来はまた「動詞」でしょう。動作の並列の意味合いが強いと思われます。

    「ご飯を食べて(それから)行きます」も並列の動作ですね。


 難し話になってしましました。

 麗老師は荻村には本当に厳しく指導してきました。

 しかしそれが荻村の中国ビジネス適応能力を開花させるのに不可欠だったでしょう。

 最後にお会いしたのが2010年です。どうしておられるでしょうか?


 麗老師のことをもう少し紹介したいので、次回お書きいたします。

 再見!

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