営業方針として求め続けたこと

 「俺のミッション 中国ビジネス三都物語」では不正に対峙する駐在員の姿を描きましたが、主人公の荻村は元々は京信素材の日本国内営業員でした 。
 上司にもズバリと指摘するソーシャルスタイルで敬遠され一匹狼でしたが、いつか分かってもらえるときが来ると信じており、勉強だけは怠りませんでした。
 そして自分が営業部門の長になったときの方針など頭に描いておりました。

 荻村が組織に浸透させようとしていた行動指針は、
 「タブー/ミニマム/+α」という指標です。

 まさか中国販社のトップになるとは夢にも思っておらず、日本で営業所長や営業課長になったらこうしよう、と夢に描いておりました。

 その原点として、先輩営業部門長達は、その時代時代の流行り言葉を念仏のように唱えるだけだったことに辟易としていたから、という事情もあります。

 やれ、「業績魂だ、売るまで帰ってくるな!」
 やれ、「顧客満足が重要だ」

 昨今なら
 
 やれ、「それはwin-winになるのかな?」

のように流行り言葉を述べるだけなのは、自分の確固たる考えがなく、それさえ言っておけば「No」と言われないからでしょう。

 「顧客満足」という言葉は1990年頃、アメリカから入ってきました。
 「Customer Satisfaction」を直訳しただけの言葉であり、そんなことは当たり前でもあり、もっと気の利いた言葉に訳せないのか?と荻村は感じていた次第です。

 日本では確か日本能率協会がCSに関する書籍をいち早く出版したと記憶しています。
 「タブー/ミニマム/+αの設定」はそこに書いてあったのではないかと思います。
 荻村はその単純な指摘に偉く心を打たれたのです。

 「みなさーん!顧客満足が重要だ!頑張ろう!」
ではなくてどうしたらそうなるのかが明確になるからです。

 若い営業員時代、荻村は支店長命令に「それは違法ではないか?」と法務部に相談したことがありましたが、同じ支店長が代理店から苦情を受けたらしく
 「代理店や顧客からの質問には24時間以内に回答しろ!」との指示を全員に出したことがありました。

 本質を求める荻村からすると
 (24時間ではなく「顧客が納得するスピード」ではないのか?)
と大いに違和感を感じるのです。
 
 荻村は2003年深圳販社を立ち上げたとき営業としてのスローガンを下記(赤字)に設定しました。

 「比客户想象更为周到的服务」

 「顧客が思っているよりも行き届いたサービスを提供する」という意味です。

 2003年の中国でこの言葉の意味を分からせるのは困難でした。部門長達に
 「顧客満足(Customer Satisfaction)という言葉は知っているかな?」と聞きました。
 「言葉は分かります。しかしどういうことをすることなのか?は分かりません」 ピンときていません。「貢ぎ物しかない」と考えていたかもしれません。
 「比客户想象更为周到的服务(顧客が期待している以上のことをやってやる)ことだ」と説明します。
 「はーっ、考えたこともありませんが、もしそれができたら顧客は喜ぶのだと思います。物を買うときにそのようなことをされた経験がないので気づきませんでした!」とちょっと感心したように口にします。

 (導入としては成功した。次に具体的にどういうことをしたら実現できるかだ)

 次に荻村は行動指針として「タブー/ミニマム/+α」を設定します。下記表はひとつの事例です。


 顧客から電話がかかってきて営業業務の女性社員が受けたとしましょう。
 「**製品のカタログありますか?」
 「没有(ありません)」 ガチャリと電話を切ります。

 「何やっているんだ。せっかくのチャンスなのに、そんなにあっさり断るな!」
 「でもないですから」

 こういう世界だったのです。
 ですので、日本人から見たらレベルは低いのですが、顧客から質問を受けた時のタブーとして、
 「解りません」ガチャリ、は止めろ!と設定しました。

 最低でも「調べて解答する」
 そして+αというのは相手に聞かれていないことも先回りして一言付け加える、ということです。
 「痒いところに手が届く」が適切な表現かもしれませんね。中国語なら
 「无微不至」という成語が適切かもしれません。言葉はちゃんとあるのです。

 最近の筆者の事例で説明いたしましょう。
 筆者は中国**航空のマイルが10万ポイント以上溜まっていたのですが、コロナ禍で中国に行けないうちに、今年末で6万ポイント失効してしまうことが分かり、中国**航空大阪支社に電話をしました。
 「提携している日本の航空会社(NALとしておきましょう)の国内便往復チケットを3万ポイントで交換できる」ということです。
 ちょうど妻と東京へ行くことを予定していたため二人分のチケットを交換することにしました。電話で対応していたのは中国人スタッフでした。
 「明日、こちらの事務所に来られますか?パスポートコピーを持参してください。税金の支払いも***円あります」と説明してくれました。
 著者は翌日市内の**航空大阪支店に出向きパスポートを渡しました。
 「もう一人、同乗者のパスポートは?」と聞かれます。さらに
 「マイルの消費パスワードを入力してください」と言います。
 消費パスワードとはマイルを使用する時のパスワードだったようですが、もう二年以上交換していなかったので、すっかり忘れています。

 ここで「+α」や「周到なサービス」を思い出してください。
 昨日電話した時、
 「はやぶさひろ様とご同乗者の方、お二人のパスポートコピーをお持ちください」
 「マイルを交換するには消費パスワードが必要です。覚えていらっしゃいますか?」
 と確認しておくことが「周到なサービス」であり、ほんの些細な気配りや労力で済む、ということも分かります。

 今回、妻のパスポートはスマホに写メがあり、消費パスワードは手帳に控えがあったので、その場で何とかなりましたが、出直しということになったら最悪のサービスだ、と思うこと必至です。

 話を荻村に戻しますが、2003年当時の中国で「+α」を浸透させようとしたことには頭が下がります。そして先見性がありました。
 2008年北京オリンピック、2010年上海万博に向け、政府がサービス向上の方針を打ち出し国全体として取り組んでいくことになるます。
 荻村は「些細な気配り」から「プチ・ソリューション・セールス」へと発展させていくのですが、やはり「プチ」なんです。
 荻村は競争戦略上「微差は大差なり」の持つ意味を重要視していました。
 それらのことは別の機会にお話しいたします。

 読者の方で営業やサービス部門長の方、よろしければこの「+α」の行動指針を模倣してください!

再見!

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